今夜のメニューに飛び入り参加となったエボダイの下ごしらえから。
塩焼きにする。
先に食した時の感想を書いてしまうが、この塩焼きはゼェ〜ッピンであった。
まず流水の下で鱗をきれいに取り去り、頭を落とす。
鱗は身に包丁を入れる前に出来るだけきれいに取り去る。
万が一、鱗が残っていたりすると、切っていく途中で身の方に鱗が張りついてしまう可能性がある。
うっかりそんな鱗が客の口に触ってはせっかくの料理が台無しになってしまう。
包丁の刃でハラワタをこそげ落す。
三枚に下ろす。
この魚は骨が柔らかいので骨ぎりぎりで身を下ろすのは結構技術がいる。
腹骨を漉き切る。
親方がやるのはここまで。
中骨抜きは追廻しに任せる。
指の腹でなぞりながら肉に隠れた中骨を探り、一本一本丁寧に抜いていく。
追廻しの楠君は今年(01年)春から働きはじめたばかり。
毎日が親方に教わりながらの実戦訓練だ。
傷だらけの指にも追廻し修業の辛さが滲んでる。
この時も中骨抜きに手間取っているのを見て小川さんがコツを教える。
「身をぺたりと俎板に置いているから骨が抜きにくい。山成りに反らせてやれば中骨の頭が浮いて出て取り易いだろう」
小川さんは楠君のことを真面目だし見込みがあると評価している。
ところで、ここまでの仕事はまるで刺身にするための仕事と同じくらいに丁寧だ。
塩焼きにするのに何故そこまでの仕事をするのかと聞くと「これが料理屋の仕事だから。ただの開きで塩焼きにしても構わないけど、それじゃ居酒屋と同じでしょ。うちは料理屋だから、食べるときに口に変に触るものがあっちゃいけないし、もちろん魚の最も美味しいところを食べてもらいたいわけだから」
仕上がったエボダイに塩を当てる。
こうすると余分な水分が抜け、客に供する頃には旨みを増しているのである。
塩を当ててしばらくたったエボダイと明日用のアジの開き。
それぞれじんわりと水分が浮いてきて、味醂を塗ったような照りを見せはじめた。
刺身用のサヨリの鱗を落す。
腹ビレはその骨が結構深く身に入っているので、こういった細身の魚の場合、骨が絡んだ部分を切り落とすと身が薄くなってしまってもったいない。
こうして、包丁の刃でヒレを押さえて、尾の方を持ち上げるようにしてやると、骨だけがきれいに抜けてくれる。
サヨリは淡白ながら噛み締めると程よいコリコリ感のある品の良い味がするが、腹の中は真っ黒だ。刺身用には内臓とともに腹腔の薄皮を丁寧にかき出す。
キレイになったサヨリ。
晒しの上にやさしく横たえて、水気をとる。
カワハギ。
カワハギは皮が非常に硬く、力任せに剥ぎ取るようにして皮をむくのでカワハギという。
カワハギはプリプリとした食感の白身の魚で大変美味しいのだが、もう一つカワハギの美味いところはその大きな胆である。
胆合えにしても良いし、湯がいてポン酢で食するのも結構。その旨さを知っているだけに、デジぶらスタッフも撮影しながら、もう、涎ダーダーなのであった。
壊さないように、そうっと洗った後、軽く塩をする。
カワハギも、しばし晒しの上で余分な水気を切った後、三枚に下ろす。
包丁の刃先を背骨に当てるようにして、
背と腹の両方から包丁を入れて身を取る。
次はショッコ。若いカンパチである。
ショッコは皮が薄く、身もデリケートである。
身を傷めないように鱗取りには気を使わなければならない。
「すき引き」によって、鱗とすぐ下の皮の間に刃先を滑らすように押し入れ、慎重に鱗を剥がしてゆく。
三枚に下ろしたら、腹骨をそぐように切り取る。
背ビレの骨も取る。
中骨を境に背側と腹側に分け、背骨周りの血合い部分を落とす。
柳刃で押し切りながら薄皮を剥いでゆく。
刺身用の冊が出来上がった。
勿体無いと思う程、次から次へと身が削られて、だからこそ濁りのない繊細な味覚が生まれる。
鯛は、普通に刺身にする他に、その美しい桜色の肌を活かして皮をつけたまま刺身(湯引きの松皮造り)にしたり、繊細な潮汁の椀に仕立てたりするので、鱗掃除は特に念入りにする。
仲卸でもある程度の鱗は取ってくれるが、ヒレの下や顔まわりには、まだ細かい鱗が残っている。
手前は冊に切り分けた鯛。右が頭、左が尻尾、奥が腹側、手前が背側となるが、尻尾が細くすぼまっていないのが分かるだろうか。実は背骨に沿って身を腹身と背身に分ける際、尻尾に向けてすぼまっていく背中のカーブに合わせて、それと平行に肛門方向へ包丁を進めている。通常、刺身として切り分ける時、尻尾の細くなった所は形のバランスが悪くなるので使えないのだが、こうすることによって、頭から尻尾まで同じ形に切り分けることができ、尻尾まで無駄とならない。尻尾まで美味い魚だからこそ、こうした工夫が出る。
鯛の半身は皮付きのまま処理を終え、もう半身は一気に皮を引いた。
この皮も、塩を当て、湯引きしたあと、千切りにすれば酢の物や椀ダネになるそうである。
穴子を捌く。穴子はウナギと並んでその生態系が未だに解明されておらず、養殖がない。
穴子の稚魚「ノレソレ(ベラタ)」の乱獲などもあって収穫量が上がったり下がったりで、実は市場が不安定な生き物だとか。
ウナギに比べて穴子の脂肪分は2分の1だから、和食の他の食材と合わせることもでき、コクがありながら淡白なその味覚のファンは多い。
「目打ち」をして魚体を俎板に固定する。
関東の穴子は背開きなので頭の後ろから包丁を入れ背骨の上をなぞるように一気に尾の先まで切り開く。
内臓を取り除いたら、包丁を逆さに持ち替え、背骨の脇を掬うようにして腹骨を切る。
骨を上にして身との間に包丁を差し入れ、掬い上げるようにして背骨を尻尾のほうまで切り外す。
背ビレの骨など、口に触るところは徹底的にきれいに掬い取る。
「この穴子は蒸し物にする。下処理をしっかりやっておかないと、口に触るから」と小川さん。料理になって出てきた時が今から楽しみである。
魚は種類が違えばそれぞれに下し方も違う。料理によって切り分け方も違う。包丁も違う。たった一日の取材ではあるが、「割」だけでも、その技術に相当な多様性があることに驚く。一つの素材だけで「走り」「旬」「名残り」「戻り」と、調理を変えることもなく味わい分ける舌を持つ日本人だからこそ、そうした世界に類を見ない調理技術が生まれたのだろうと思った。
協力:割烹「恭川」 小川恭男氏
東京都中央区築地7-16-5
電話03-3544-0123
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||