味噌汁用に一番出汁と二番出汁を合わせた出汁を温め、味噌を溶かす。
味噌汁が煮立つ前に火を止め、アクを引き、別鍋に移してさらに一番出汁を加えながら味を調整する。
実にする大根のつまみ菜は、エグ味が強いので別の鍋で軽く味噌味がつく程度に煮ておき、供する時に合わせる。
焼き魚用に炭を焼いて火床の準備をする。
昨日開いて軽く干しておいた鯵を改めてもう一度風に当てる。もう少しでちょうど良い干し加減になる。干すことによって余分な水分が抜け、旨味成分が増す。これもやはり「烹」だ。
金目鯛の煮つけに取りかかる。
まず切り身を沸騰したお湯にさっとくぐらせて余分な脂と臭みを抜く。
いつからのものか分からない程何度も何度も煮付けて来た煮汁に多少調味料を足し、湯引きした金目鯛を丁寧に並べる。
すでに濃厚な魚の旨みが充分に出ている煮汁で煮るのだから旨くならないわけがない。
臭み消しと香り付けに生姜と牛蒡を入れる。
牛蒡はあしらいも兼ねている。
かなりたっぷりの砂糖を入れる。ランチはご飯のオカズであるから味を濃い目にするのだ。
あとは煮あがるまで決して鍋の中は触ってはいけない。火加減のみ注意して煮あげる。
ランチメニューは、煮、揚、焼の3品があり、この日は煮が金目、揚げが太刀魚、焼きは鯵である。
太刀魚を揚げる。
火の通りは七分で上げておく。お客さんが来て、注文を受けたらもう一度仕上げに揚げてアツアツで出す。ランチは夜のようにゆったりと時間を掛けていることなど出来ないので、時間の掛かる工程はこうしてあらかじめ七分通り済ませておくのだ。
さきほど風に当てて仕上がった鯵の開きに金串を打つ。程よく水分が飛んで鯵の身に艶と張りが出ている。これは美味いに違いない。
やっと、炭全体に火が回った。火力にむらができないように火床に焼け炭を並べる。
鯵を焼く。
プロの焼きは焼き網を使わない。こうして炭火を直にあてて焼くために金串を使っている。
揚げ物と同じく、焼き魚も火の通りに時間がかかるので七分焼きの下処理である。
開きは身の側から焼くと余計な脂分が落ちて美味しく焼ける。目が白くなったらひっくりかえす。
焼きはやはり遠火の強火が最高に適している。また炭の良いところはガス火のように燃焼しながら水蒸気を出さないので焼きあがりがパリッとすることだ。
煮ていた金目が良い色になって来た。時間もちょうどお昼になる。恭川ではランチは大体50人分を用意する。その膳ごしらえは次回「膳」でご覧頂こう。
大忙しのランチが終わるとすぐに夜の仕込みに入り、賄いを取るのは3時過ぎくらいになる。賄いを取った後は夕方まで休憩。献立の練り直しや支度の段取りなどを考える。
きょうのランチは金目の煮つけが大人気で予定数をオーバーして作り足したぐらいだったが、その分、鯵が若干残った。それできょうの賄いは鯵。
表に出てみると柿の皮が干してある。白菜を漬ける時に一緒に入れると良い甘味が出るのだそうだ。
漬物は、おばあちゃんから受け継いだ漬物樽で毎日手作りにしている。その日の野菜の出来や気候で塩梅も調節する。
漬物はいわば添え物。しかし出来の悪い添え物は主菜の品格も落とす。だから疎かには出来ない。
夜の支度を始めるにはまだ早いが、時間の掛かるものだけ始めておく。
皮を剥いた栗を火にかける。色づけのくちなしを入れ、砂糖をたっぷり入れる。
煮立って来る様子に目をこらし、香りづけのブランデーを入れるタイミングを測っている。あまりぬるい温度で入れてはならないし、煮立たせてしまってもいけない。入れるタイミングは一瞬なので目が離せない。
ブランデーを入れたら火を弱め、天紙(天麩羅の油切り紙)で落し蓋をする。天紙は当たりが優しいので、柔らかで形を崩したくない煮物に良い。
休憩を終え、支度に入る。
先ほど捌いた穴子に金串を刺す。この穴子、最終的には蒸し物の一品になるのであるが、まずは焼きである。
大振りの穴子は皮から焼く。
皮がこんがりと焼けたら返して身のほうもじっくりと火を通す。やはりこういう炭火の火加減でないと、こんがり、ぱりっとした焼き加減にはならないように感じた。
穴子を焼きながら別の鍋に火が入る。奥の鍋は河豚の皮を湯引きし始めている。
八分どおり焼きが進んだ穴子に生醤油と酒を合わせたタレを塗っていく。
タレと穴子の脂が炭にしたたり落ちてパッと煙りが上がる。一挙に香ばしい匂いが辺りに立ち込め始める。このままで食べたって十分に旨過ぎるに違いない。あの、ちょっと味見を…と、声が喉まで出かかるのを唾で飲み込んだ。あー、早く食いたいー。
カワハギの胆が茹でられる。ということは、刺身の一つとして出てくるのか。
水に漬けておいた銀杏に軽く割れ目を入れて、たっぷりのあら塩で煎る。水に漬けておくと臭くないし、乾かない。
「これは家庭でも出来るかもしれないね。ただし、鍋一個駄目にしちゃうけどね。ははは・・」と笑いながら鍋をゆすり続ける。
表面が乾いて香ばしい匂いがしてきたらOK。
冊からの刺身の切り分けも始まる。
突出しの一品を作る。富山湾の深海で育った特産のシラエビの上に、筋子からほぐして醤油、酒などで味付けしたイクラをのせる。
突出し、そして刺身と、十分に間を置きつつ、順に客に供されてゆく。今回、わしらデジぶらスタッフが客も兼ねているのでこの時は大変だった。喰ったり撮影したり喰ったり撮影したりで、落ち着けないし、肝心な所を撮影し損なったり、しまいには喰う方に夢中になってしまったりで、これは失敗だったな。
焼き物が始まった。車えび、トラフグ、そしてあのエボダイである。
火の通りの違う素材を同時にあげなくてはならない。
焼き物をしながら一番出汁をとる。出汁は香りが命だということを考えれば料理に使う出汁は直前にとるのがベストに違いないが、今日一日で何回目の出汁とりだろう。
焼き上がった肴を盛り込む。
皿のどこに何を置くか、イメージを描きながら置いてゆくように楠君に教えながら一緒に作業を進める。
茶懐石の流れを受ける会席には、そのあしらいにも風雅が要求される。
鱈の白子はどこに使うのかと思っていたら、蒸し碗だった。蒸し物は小川さんの得意料理のひとつである。小鉢の中には、それぞれ下処理を施した具材が一杯。一番下から、あの焼き穴子、酒蒸しした車海老、銀杏、百合根、それと白子、これも湯通ししてあるようだ。つまり生物は一切入っていない。料理もいよいよ佳境である。
蓋をして、蒸しに入ったかと思うや、ものの二十秒程で蓋を開け、今度はカブと卵白を合わせて泡立てたものをそうっと上にのせた。蕪蒸しである。
再び蓋をしたが、今度はわずか10秒。さっと蓋を取って手早く器を取り出した。
別鍋でチンチンに煮立てた銀餡をトロリとかけまわし、山葵のひとつまみを天盛りする。
温めていた蓋をそっとかぶせて蕪蒸しの完成。
この一品ばかりは小川さん自らが僕らの食膳まで持ってきてくださった。具の下ごしらえ、火加減、碗蓋を乗せてから食すまでに碗の中で蒸される加減まで計算し尽くした絶妙の一品といって良い。京料理を基礎から学んだ小川さんの自信の一品である。
いつの間に用意していたのか、きのこ御飯まで出来あがっていた。さきほど大量に取っていた出汁は蒸し物の銀餡と、この炊き込み御飯に使うためであったようである。
割烹の仕事は、メニューを決めたら仕込みから仕上げまで怒濤のように押し進めているかの様だったが、実はそうではない。お客さんからリクエストが出ることがあったり、好き嫌いがあったり、あるいは顔を見ただけでもその人の好みを察知して、時には土壇場でメニューを変えることがある。割烹は臨機応変が身上なのである。だから仕込みにはどっちへ転んでも応用が利くようにある程度幅を持たせているのだという。美味しいものを美味しく食べさせる技術が「烹」。しかし、それがひとり良がりであってはならず、人が何を望んでいるかを敏感に察知して、その気持ちにできる限り沿うように工夫をする。そうした心構えも「烹」のひとつなのである。
協力:割烹「恭川」 小川恭男氏
東京都中央区築地7-16-5
電話03-3544-0123
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