第二日目

4. 今帰仁(なきじん)

 沖縄2日目、朝6時少し前、グレイスホテルを出発。空は明けているが西はまだ夜のなごりが残っていた。前日の酒がまだ首の周りに漂っているというのに、しっかり起きた。後で聞いた話だがSatosiはそのちょっと前までコザの街で迷子になっていたらしい。ツキのアタマの中も「姫」で聞いた島歌やなにやらの沖縄民謡が泡盛の匂いと一緒に、いまだにグルグルしていたのであったが、沖縄支部長の話が気になっていた。前日の宴席のどこで聞いたか忘れてしまったが、上間沖縄支部長のルーツは山原(ヤンバル)だってことを初めて聞いたことである。正確には上間の二親の出身地が今帰仁だということなのだが、漠然と沖縄北部も見てみたいと思っていた私には格好の目的地ができたのだ。 コザ(沖縄市)から沖縄自動車道に乗って40kmほど北上し、名護市の手前で一般道に下りる。さらに20kmほど北進して本部半島の中心にたどり着いた。咽るような草いきれと、かしましいセミの声が、隙間無く降り注いでいる。まだ、午前9時だというのに気温は30℃を超えているのだろう。ここは熱暑の渦巻く亜熱帯なのであった。 寝不足とあまりの日差しの強さに耐え切れず横道に入ると、奥に通じているらしい道の脇にカラフルな沖縄の墓が目に映った。そこらじゅうに野生のハイビスカスの赤が濃い緑の中で萌えている。車のエンジンを切り、窓を少し開けた。エアコンで冷え切った体が急速に解凍されていく。やかましいセミの鳴き声を聞きながら15分ほど気絶していた。
森
 今帰仁の森。昼に活動する森の生き物たちは、この時間にはすでに佳境に入っていたに違いない。ジャワージャワー、ワシワシ、ウミンウミン、ワインワインとうねるような激しいセミの声に混じって、本土では聞いたこともないような鳥たちの声が鋭く飛び交っている。ヒョーン、ヒュルッ、ヒュルッ、ツィーッ、チー、ピスピス、ジャーッ、ギャーッとどんな奴らが騒いでいるのか想像もつかない。梢を揺らす熱風の中をアゲハが弱々しく飛んでいた。
クワズイモの葉
 東京ではクワズイモといって観葉植物として売っているが、このひと株を4畳半に入れたらこれだけで一杯になってしまうであろう。森の下生えにはこんなのがいたるところにある。
ハイビスカス
 森の表を飾っているハイビスカス。たまに黄色もあるが圧倒的に赤が多い。5メートルを越す大木になっているのもざらである。
農村
 この一帯は農村地帯である。起伏に富んだ畑の中に家が点在している。
バナナ
 島バナナ。まだ熟していなかった。実の形が多少いびつだが味は濃い。
さとうきび畑1
 本当にいたるところにさとうきび畑がある。草丈は3メ−トルくらいか。まだ茎が黒く甘く熟していない。
さとうきび畑2
 二期作で植付けのあといくらか施肥をするだけで、あとはほったらかしである。たしかにでかい草にしか見えない。
今帰仁村、玉城
 今帰仁村、玉城。村の中心に近いが県道から一本道を逸れると、静かな集落の中だ。
屋根
 屋根はセメント瓦で葺いてある。赤土を焼いて作った赤瓦は高価なために、一般的にはこのセメント瓦がほとんどである。また古い時代、赤瓦は王朝に列する身分の高い人しか使ってはならぬという、しきたりもあったらしい。その名残もあるのだろう。
家の入り口
 沖縄の古い様式の家の玄関先は必ずこういった垣根がある。垣根の中は石を積んだ塀である。台風に対する備えでもあるが、普段は風の通り道でもある。周りを防風林で囲み、屋根を低くしてあるが風通しはすこぶる良い。
ゴーヤー畑
 家の裏にゴーヤの畑。食生活の必需品である。
ゴーヤーの花
 ゴーヤの花。同じ瓜の仲間だからキュウリの花と良く似ている。
ゴーヤー
 しかし、なんだな。このイボイボ。暑くてたまらんのに、おいらは出すものは出すぞおっていう力を感じるね。苦いがビタミンはそこらの青物の比じゃない。オラオラー、オイラを食っとかないと沖縄の太陽に負けるぞーってなかんじだ。
庭先1
 日盛りの軒下でなにやら涼んでいるオジーが二人。
庭先2
 「写真かねー、写真撮ってるかー」と赤い服の御兄さんが手招きをするので近づいてみると、御兄さんはテーブルに戻り、何やら美味そうに飲んでるではないか。
庭先3
 そういえば今日は土曜日、仕事は休みだった。庭先の写真を撮ってもよいかと尋ねると、さえずるようなヤンバル方言で話しかけてくる。どこからきたか、観光客には見えんが何でこんな所をうろついているのかとか聞かれたような気がしてアワアワ答えたが、フンフンとうなずいて泡盛の水割りをクイーっと傾けるのである。たぶんかなりトンチンカンなことを答えてしまったようだが、ちっとも意に介した様子もなく、穏やかーに二人の酒盛りは続く。
庭先4
 話が半分も解らないまま、ふと庭の木を眺めていると、なにやら実が成っているのが見えた。あれは何の実ですかと聞いたら、突然オジーが奥に大声で何か伝えると、台所から冷たい水と丸い果実を持って奥さんが出てきた。
庭先5
 これはすごく酸っぱかったが美味かった。種のまわりのゼリー状の果肉をスプーンで啜りこむと暑さでうだった体に爽やかな衝撃が走る。水が甘い。こいつはパッションフルーツに違いないがまだ青い実だ。「一昨日の風で落ちたやつを冷蔵庫で熟させたやつだ、わしらは良く食うぞ」みたいなことを言っていたような気がする。
庭先6
 「おまえも泡盛一杯やるか」みたいなことを言われたが、しかしまだ昼前であった。急ぎ旅のオイラでなかったら本当は呑みたかった。きっと汗も引いて暑ささえも楽しめるいい気分になったろうに。名残を告げて軒先を出るとオジーは黙ってグラスを掲げて見せるのであった。
ナーベラ
 赤いナーベラ。安い。一本80円。豚肉と一緒に炒めたり、煮物にしたり。
野菜
 沖縄の野菜は蔓モノが多い。蔓モノは体を冷やしてくれる。
墓1
 今帰仁からの帰り道、朝世話になった木陰に立ち寄る。
墓2
 たぶんその形と強い日差し、濃い生命力のある木立のせいだと思うのだが、沖縄の墓はあまり陰気な感じはしない。沖縄の人々は家族、親族、を非常に大切にする。その形がこの墓なのであろう。オイラも木陰で少しだけ世話になった。
海展望
 ヤンバルまできたといっても実はここ今帰仁あたりはまだヤンバルの玄関先のようなもの。街に引き返す前に遥か彼方にでも本当のヤンバルの姿を眺めるべく嵐山展望台に登った。羽地内海の対岸は屋我地島、その海の向こうに霞んでいるのが天然記念物ヤンバルクイナの潜んでいるらしい山々の峰である。いつかもう一度来ちゃうんだろうなという予感を残しつつ、街へと戻った。
5. サンパウロの丘 へ
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